パリ滞在20年とメゾチント100点の完成
岩谷徹
私のパリ生活も 20 年がたちました。渡仏の当初の目的が版 画家のへータ一氏のアトリエで新銅版画を学ぶことと、パリの風景を描くことだった事を考えると、以来 19 年間、メゾチントに打ち込むことになった事は、我ながら考え深いものが あります。
渡仏後、前述の二つの目的がすぐに私の中で消え、パリ滞在の確固とした理由が無くなり、宙ぶらりんで欝積していた真にその時に、偶然にも知りあったばかりの人から浜口陽三先生の作品 2 点、他の数点の作品とともに額装を頼まれ ることになりました。そこで 2 ヵ月ほど毎日毎日作品を眺め るという機会を持ちました。
その当時は一部屋住いで、一日のうち何回となく自然に作品に目のいく毎日で、所有者が持ち帰ってしばらく後、 ようし、これからはメゾチント一本でやるぞと欝積していた気持 が晴れ、再ぴ目的が決まり元気が出てきました。パリ到着後 10 ヵ月目の時でした。
それからは文字通り迷うことなくこの技法一筋にやってきました。こうして 20 年間、静かな空間で自分の内面を見つめてこれたということは大きな収穫だったと思います。外からこれをみたら蟻の生活だったことでしょう。その問、後半からは腎不全が徐々に悪化し、人工透析、腎移植を経て、漸 く健康を取り戻し再スタートができることは実に大きな喜びです。
丁度メゾチント 100 点の完成を記念して、オスカーアートの 小野氏にカタログレゾンネの出版と、 100 点展を企画していただいたことも大へん嬉しいことです。この機会に御礼申し上げます。
1991年5月4日
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